暗号資産(仮想通貨)を取り巻く制度②
ここからは現行と国会に提出された改正案の比較をしていければと思います。
今までの制度まとめはこちら
現行と改正案の比較
「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律
案(平成31年3月15日提出)をもとにしたものです。
1.呼称
今
仮想通貨
↓
案
暗号資産
呼称の変更に伴う定義等の変更はありませんが、「電子記録移転権利を除く」と明記されました。
それまで、電子移転記録権利は金融商品取引法の規制を受けるのか資金決済法の規制を受けるのか、重畳適用なのかはっきりしていませんでした。
今回、資金決済法の改正案に明記されたことにより、電子記録移転権利は金融商品取引法の規制のみを受けることが明確化されました。
2.仮想通貨交換業者の定義
今
仮想通貨交換業者に仮想通貨の管理のみを行う業者(カストディ業者)は対象外
↓
案仮想通貨交換業者にカストディ業者も含める
カストディ業者も交換業者と同様にサイバー攻撃による顧客の暗号資産流出等のリスクにさらされていることから交換業者と同様の管理に関する規制を受けることになりました。
ただし、信託業法に基づき暗号資産を預かる場合・秘密鍵を預からないウォレットの場合、対象外となります。
3交換業の業務に関する規制の強化
①登録拒否事由の追加
今
認定資金決済事業者協会への加入は義務付けられていないので、登録を拒否する事由にはあたらない。
↓
案認定資金決済事業者協会への加入は義務ではないのですが、認定協会の自主規制に準じる社内規制を作成していない・作成していても尊守する体制を整えていないものの登録を拒否することができるようになります。
②登録申請書記載事項を変更する場合
今
事後の変更届の提出
↓
案「暗号資産の名称・暗号資産交換業の内容及び方法」を変更するときは事前届出が必要
この変更により、暗号資産交換業者は取扱う暗号資産の名称を事前に届出ることになりました。
移転記録が公開されていないコインなどが取り扱われないか、自主規制機関と政府が連携して、チェックをする仕組みを整備することになります。
③広告・勧誘規制の整備
今
規定なし
↓
案
表示義務 【商号】 【暗号資産交換業者である旨及び登録番号】【暗号資産は法定通貨でないこと】【内閣府令で定めたこと】
禁止行為 【虚偽表示】【誇大広告の禁止、投機を助長するような広告】【勧誘の禁止】
暗号資産交換契約の締結等をするに際し、又はその行う暗号資産交換業に関して広告をするに際し、支払手段として利用する目的ではなく、専ら利益を図る目的で暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換を行うことを助長するような表示をする行為は禁止されます。
(どの程度の広告が禁止されるか、明確にはされていないません。)
4.信用を供与して暗号資産の交換等を行う場合の情報提供措置
今
規定なし
↓
案暗号資産の交換等に係る契約内容についての情報提供等の措置を講じなければなりません
暗号資産交換業者が、利用者に対して信用を供与して暗号資産の交換等を行う場合には、契約内容についての情報提供等の措置を講じる必要が発生します。
これにより、不明確な契約というものが減っていくと思われます。
5利用者の保全義務の強化
①利用者の金銭の信託義務
今
自己資金とは別の預貯金口座または金銭信託で管理しなければなりません。
↓
案自己の金銭と分別して信託会社・信託銀行等に信託することの義務付けられます。
②暗号資産の分別管理
今
利用者ごとの財産を直ちに判別できる状態で分別管理することが義務付けられています。
↓
案
分別管理に加え、業務の円滑な遂行等のために必要なものを除き、顧客の暗号資産をコールドウォレット等で管理することが求められています。
今までよりユーザーの資産を安全に守る方向に改定が行われます。
③履行保証暗号資産
今
規定なし
↓
案暗号資産交換業者は、ホットウォレットで管理している顧客の暗号資産と同種・同量の暗号資産を保有し、自己の財産とは区別してコールドウォレットで管理することが義務付けられるようになります。
暗号資産交換業者にとっては負担が増える仕組みになりますが、ユーザーにとっては安心して暗号資産交換業者を利用できる改定になります。
④暗号資産返還請求権に対する優先弁済権
今
分別管理義務はあるが、あくまでも仮想通貨交換業者の財産として取り扱われます。(一般債権)
↓
案
利用者は分別管理される暗号資産・履行保証暗号資産について優先弁済権を有します。
これにより、暗号資産交換業者が倒産した時などは、分別管理させていた暗号資産につき優先的に弁済させることができるようになりました。
6電子記録移転権利
ICO・STO 企業等が電子的に証票を発行して公衆から資金調達を行う行為
電子記録移転権利 電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示されるもの(ブロックチェーン上で移転することができるもの)。第一項有価証券として取り扱われる(内閣府令に定められるものは第二項有価証券)
今
資金決済法・金融商品取引法のどちらが適用されるのか・重畳適用されるのか明確ではありませんでした。
↓
案
電子記録移転権利(STO)に該当するトークン(現実世界での価値の裏付けのあるもの)を発行するICOは金融商品取引法の規制を受けます。
ユーティリティトークン(サービス等にアクセスをする権利)を発行する類型のICOは電子記録移転権利の対象外となるので資金決済法の規制を受けます。
7暗号資産デリバティブ取引
今
規定なし
↓
案
暗号資産が金融商品に追加されるので、暗号資産に関するデリバティブ取引は金融商品取引法の規制を受けるようになります。
取り扱うには、金融商品取引業としての登録を受ける必要が生じます(対象外もあり)
通貨関連デリバティブ取引と同様の規制を受けます。
ただし、説明義務には、通貨関連デリバティブ取引に対する規制に追加して暗号資産関連業務に関する説明義務の特則が設けられます。
8不公正取引規制
今
規定なし
↓
案不正行為、風説の流布・偽計・暴行または脅迫の禁止、相場操縦行為等の禁止が規定されます。いずれも行為主体に限定はありません。
9立証責任
今
規定なし
↓
案金融商品の販売の定義に、暗号資産を取得させる行為が追加されます。
今までは顧客が暗号資産交換業者に説明義務違反の不法行為で損害賠償を請求するにあたり、顧客側が説明が不足していたことなどを立証しなくてはいけませんでした。
しかし、この改正案によりそ立証責任が暗号資産交換業者に移ることになります。
いままで整備されてこなかった制度が整ってきそうですね。
制度が整うことにより不便になることもありますが安心して利用ができるようになるということはいいことですね